奈義町現代美術館では、8月26日(日)までの会期で、「そらのみず−東島 毅 展 」が開催されています。 東島さんは佐賀県出身で、1990年代ニューヨークで活動、1996年には優れた平面作品に与えられるVOCA賞を受賞。 帰国後は岡山市在住で、京都造形芸術大学、倉敷芸術科学大学などで学生の指導にあたりながら、精力的に制作活動を続けておられます。 カフェスペースに展示されている高さ4mの最新作「ゆめのいたみをわかちあう」ほか、屋上に展示されている「聴嵐」や、ギャラリーなど美術館全体に非常にスケールの大きな作品が展示されていて、 これらの大作と向かい合うと、そのスケールに圧倒されると同時に、作品の世界に引き込まれていきそうな感覚を覚えます。
東島さんにお話を伺いました。 今回の展覧会はこれまで作って来られた作品を見せるような展覧会になっているのですか。 どういう展覧会にしようかと考えたときに、はじめからあまり気負わないようにしようという気持ちがあって、 新作に関しては「何ができるのだろう」という感じもありましたし、 また展覧会のサブタイトルとした「そらのみず」という言葉についてイメージしていく中で 「過去のこんな作品を展示してみたい」といった思いも出てきたりして、そうした中で徐々に組み立てられてきましたね。 それに奈義町現代美術館はほかの美術館に比べて非常に馴染みのある場所ですし、 また年齢を重ねて来て感じた事、岡山に長く住んで感じてきた事などもあって、 そういうさまざまな要素があいまって、自然にできあがっていった感じですね。 ここでどういうことができるか、というあたりからスタートして、 それに合う作品を選んでいくというプロセスだったのでしょうか。 そうですね、ここにこれが来て、それならここにはこの作品が来て、 こうつながって・・・というように、ごく自然な流れの中で、できあがっていきました。 またそれに加えて、この建物の廊下がまっすぐ北に向って那岐山の頂上につながっていることとか、 この建物にしばらく滞在しているうちに自分の中にしみ込んできた建物の雰囲気とか、 そういう様々な要素も入り交じっていますね。 「そらのみず」というサブタイトルはどのような? それもまた曖昧としたものなんですが、 最初に奈義の空とか雲を眺めながら、空の境界とか、水のこととか・・・そういうことを考えながら、 これまでの自分の過去を振り返りつつ、大げさに言うと将来土に戻るまでの時間も考えたり、 そういう中で過去の作品を思い起こしてみたり、そういう、 混沌というか曖昧なものの中からできあがってきたという感じですね。具体的に「空の水」、という何かがあるわけではなくて、 漠然と奈義という場所を捉えたときのイメージが「そらのみず」というものなんです。 作品の年代は幅広いんですか 1991年から2012年のつい最近まで取り組んでいた新作まで、20年の時間がここにあります。中には昔の作品で、全く紹介されたことのない、初めて公開するような作品も含まれています。 この時点でこういう作品を掘り起こしてくるということ自体が、 僕にとっては「そらのみず」というタイトル、そのイメージを象徴するものになっています。 奈義という場所の捉え方のイメージが「そらのみず」というものであり、 その「そらのみず」というイメージが今回展示される作品を包摂しているもの、ということなんですね。 展覧会初日に屋外でワークショップをしたのですが、 それは自分の目線の高さでずーっと線を引いてもらう、というもので、 地面に立ったときの自分の目の高さ、そこに線を引いていくという行為を通じて、身体の確認をしていくというものです。 その行為を通じてそれぞれの人がそれぞれの感覚で自分自身の位置や存在を知るような? そう、それぞれが、です。それぞれの人の 方位はそれぞれまったく違うものです。 それぞれの人が自分の方位を感じ、自分の身体を中心に南北であるとか自分の身体について感じていくという体験をしてもらいました。そういう意味ではこの行為も「そらのみず」であるかもしれません。 「そらのみず」という、意味をはかりかねるような曖昧なイメージの中で、 自分の位置というものを知っていくということでしょうか。 水や空といった具体的な意味というよりも、言葉のひびきやリズム感が呼び起こす何か。そういう曖昧なイメージの中で、自分自身にとっての身体感覚を通じて美徳を知り、確かめるということですね。 また美徳というのはそれぞれの時代で異なるものであるだろうし、季節によっても違うかもしれない。そういうものに気付き、確かめていくということが大切なのではないかと思います。 ギャラリーの作品は、大作が中心となっていて、それぞれの作品がはっきり、しっかりと見られる面白い空間になっていますね。 空間としては、ひとつひとつの作品がしっかりと見られればいいと思います。人によって見ていく順序も違うと思いますが、そういうことも含めて、作品に自然に引き寄せられる空間になっていれば。 さっきのお話にあったワークショップも含め、ギャラリーなどの展示空間もまた、 そういう、自分の位置を確かめる機会になったり、自分自身と対話する空間になっていくのでしょうか。 そうですね、そういうさまざまなことに、訪れた人が気付くきっかけになればいいのではないかと思っています。 私たちの環境はいわば「そらのみず」という言葉が与えるイメージのように曖昧なものですが、 その曖昧さや人為を超えたさまざまな事象と対話しながら、自分自身の身体や精神を基軸に世界の中に自分の位置や存在の意味を見出していきます。 絵画を見、その空間を感じるという経験もまた同じく、あるいはそれ以上にそのような対話と発見の契機になるのかもしれません。東島さんは、まさにそのような機会を作り出すことに絵画の可能性を見いだしているのではないかと感じました。 そらのみず−東島 毅 展 2012年7月21日(土)〜 8月26日(日) 奈義町現代美術館(岡山県勝田郡奈義町豊沢441) 問合せ 奈義町現代美術館 ☎ 0868-36-5811 |